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千切れたノート



新しいノートを何気なく手に取った。


パラパラとページをめくり
さて何を書こうかと思案していた時、
私はあることに気づいた。

ちょうどノートの中ほどに
一枚分が破かれた跡を見つけた。


勢いよく引き千切った様子を物語る
ギザギザのまま残った切れはし。

いつ購入したのか、記憶は定かではなかった。
あるいは、誰かに貰ったのか……。

日記など記したことの無い自分にとって
記憶とは、破り取られたページのごとく
失われていくもののひとつだった。


椅子にもたれ、しばらく眼を閉じた。

朝から降り続いていた雨は、
いつのまにか雪へと変わり、
遠くサイレンの音だけが響いていた。


私は手許にあった青いペンを取り、
最初のページに Liberty とだけ書いた。
次の言葉は思い浮かばなかった。

その一言のみが、
この真新しくも不完全なノートに相応しいと
ひとり満足した。



傍で眠っている子どもの寝顔を見つめた。
握り締めた小さな手。
枕元には、丸まった紙くず。

それを拾い上げ、机の上で開いた。
千切れたノートのページには、何も書かれていなかった。

ただし……
菓子で汚した小さな指の跡以外は。


私は、幼い子の成長の標として
最初のページの後に、それを挟み込んだ。
青いインクがチョコレートの痕跡へと滲んでいく。


……或る冬の夜は
そうして過ぎていった。


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三日月の刻印
久しぶりに物語モドキを『Under the Sun』に綴った。充分練り切れていない内容なのだが、ひとつの記録として掲載しておきたい。「三日月の刻印」とは私が勝手に付けた仮タイトルである。




『三日月の刻印』
人はなぜ繋がりを求めるか――青年マルコの冒険 (9)
-------------------------------------------------


見渡す限りの荒野が拡がっていた。
草も木も無く、鳥も獣もおらず、小さな建造物さえ無い不毛の地だった。

疲れ切った身体を癒すために道端で休息したのだが、いつの間にか眠ってしまったらしい。……いや、違う。この場所へと続いていた巨大な穴を抜けた途端に目眩を覚えて、そのまま倒れ込んだのだ。
マルコはゆっくりと立ち上がり、記憶に残る直前の出来事を思い返した。足元に感じ、次第に近づきつつある鈍い地鳴りに怯えながら……。


……辿り着いた先にあった岩の門は、天空まで届かんばかりに立ちはだかる岩壁をくり貫いたものだった。入口の両脇には青白い炎が揺らぐ松明が設えてあり、壁の遥か上方には流麗な筆記体で何かの文字が刻まれているのが視えた。だが、それが彼の目指している“Under the Sun”を示す銘文かどうかは、はっきりと判らなかった。
彼は先の視えない巨大な穴から中を覗き込んで少し躊躇したが、片手に持っていた缶ビールを一気に飲み干し、勇気を振り絞って歩み進んでいった。

門というよりも、洞窟に近かった。やはり、この路ではなかったのか。
踏みしめている地面が不規則に震動していることに不安を感じた。旅の途中で授かった黒曜石の槍が、ぼんやりと前方に浮かび上がった朧な光を反射して、闇の中で微かに煌めいた。

中途で立ち止まり、辿って来た道を振り返った。
そして、厳しくも優しかった人々との会話を頭の中で反芻し、その出逢いに感謝した。口元には自然と笑みが浮かんだ。旅に出て良かった、と心から思えた。


先へ進もうと足を踏み出した途端、マルコはバランスを崩した。
次の瞬間、地面が烈しく揺れた。
膝を付き頭を覆った。左手に鋭い痛みが走った。落石によって手首を傷付けたらしい。
地震はすぐに収まった。塵が充満して息苦しい。眼を擦り、光の射す方向を探した。先程の揺れで出口付近は崩れていたが、大人が潜り抜けるほどの穴は空いていた。マルコは無心で光のもとへと進み、ようやく闇の中から這い出た。
そして、そのまま気を失った。



……どれだけの時間が流れたのか定かではなかった。

生き物が生息している様子さえない荒地。遠く連なる岩山にも植物は視止められず、河や湖の痕跡さえ無い不毛の地。

……ここが“Under the Sun”なのか。そんなはずはない。
まるで、この世の果てにでも、辿り着いたかの如き情景だった。

マルコは荒野に立ちすくみ、いつまでも続く不快な地鳴りを全身に感じていた。
左手に鈍い痛みを感じた。手首から手の甲にかけて三日月型の深い傷が残り、いまだに生々しい鮮血が滲み出ていた。


ふと、空を見上げた。
厚く垂れ込めた暗雲をかすめて大量に飛来するものがあった。それらは遮断されながらも僅かに届く太陽光を浴びて不気味に輝いていた。やがて耳をつんざくばかりの轟音とともに姿を現したのは、鳥でも飛行船でも旅客機でもなく、爆弾を積み込んだ戦闘機の群れだった。

マルコは恐怖に襲われて凍りついた。
気付けば、彼の廻りを取り囲むように、見知らぬ人々が同じように恐怖に怯えながら上空を視つめていた。……いつの間に。だが考え込む余裕などなかった。雲の狭間にうごめく害虫の如き戦闘機群は大きく旋回しつつ、地上の様子を窺っているようだった。
マルコは叫んだ。「やめろっ!」
その声は轟音に空しくかき消された。不思議なことに、廻りの人々も必死に叫んでいるのに誰一人として彼らの声がマルコの耳には届かない。
彼方の岩山まで埋め尽くした地上の人間たちを茫然と眺めた。

……こんなに大勢の人々の中に居るのに、まるで僕は独りきりだ。


「さて、どうする……」
マルコが呟いたのではなかった。笑い声とともに彼の脳内に響きわたったのは、初めて聞く男のくぐもった声だった。「お前が探し求めていた人と人との繋がり。その極限の状況が今まさに眼前で展開されている」
マルコは振り返った。漆黒の仮面が空中に浮かび上がっていた。眼と口の箇所が楕円にくり貫かれたその能面は、嘲笑うかのようにゆらりゆらりと揺れた。「俺に実体はない。この仮面はお前自身が作り出した仮想に過ぎない。さて、もう一度訊こう。この先どうする……」
マルコは上空を視た。
戦闘機の翼に、見慣れた国旗を認めた。恐怖は怒りへと変わった。
「何故、あいつらは我々を殺そうとするんだ。僕らは、同じ“国民”のはずなのに」
能面の眼と口から僅かな紅い光が洩れた。
「馬鹿なことを。国家にとっての“国民”など、あの無機質な戦闘機と同義なのだよ。爆弾を何発か射ち込んで、弾切れとなったら体当たりさせる。死こそ、究極の奉仕。殺すも、殺されるも、全ては国家が管理し、弔う。それが“国民”だ」
マルコは拳を地面に叩き付けた。
「では、僕が探し求めている“繋がり”はどこにあるんだ。人々が繋がりをもってその人生を全うすることができるのは、国家に守られ、日々の安全を保障されているからこそじゃないのか」
「幻だよ、マルコ」能面は激しく揺れた。


何の前触れもなかった。
一機の戦闘機から続けざまにミサイルが発射され、真っ直ぐに彼方の岩山へと着弾した。
それを合図に、他の戦闘機も無差別で砲弾を発射し始めた。逃げ惑う人間もろとも地上が破壊され尽くすのは時間の問題だった。爆発の衝撃とともに地面は揺らぎ、人々は恐怖と絶望によってパニック状態となっていた。

砲煙弾雨の中、マルコは叫び続けた。
「やめてくれ。お願いだから、殺さないでくれ!」
気が付くと、傍らに巨大な砲台が出現していた。彼はためらうことなく、そこへと向かった。
「それがお前の選択なのか」能面は語りかけた。
「ああ、そうだよ。このまま黙って仲間が殺されていくことには耐えられない。あいつらに復讐するんだ」顔面蒼白のマルコは答えた。

硝煙と瓦礫と屍で覆い尽くされた大地。
……これが僕の愛する国の実体なのか。人々との繋がりの意味を探し求めて、最期に辿り着いたのがこんな地獄だったのか。ここには不信と憎悪、報復の連鎖が生み出す絶望しかない。

砲台のハンドルに手を掛けようとしていたマルコを、どこから現れたのか、同じく怒りに打ち震えている別の男が遮った。
「俺がやってやるよ。どうもお前は信用ならない」
マルコは憤慨した。「僕も闘う義務がある」
「何ために」男は眼を細めて訊いた。「誰のために、お前は武器を手にするんだ」
「キミたちを守るためだよ。僕らの国家を守るためだよ」
「嘘を付くな。オレとお前は何も繋がってはいないよ」
「いや、だって僕たちは同じ国家に生まれ育った国民じゃないか」
「国民などと何処かの政治屋みたいに軽々しく口にするな」
男は吐き捨てるように、続けて云った。「何も解っていないようだ。お前は誰かを守るために、他の人間を殺すことができるのか」
「僕は信じる人々とともに闘う。例え、結果的に誤りであったとしても、この繋がりを決して壊したくはないんだ」
だが、その男はもう、何も語らなかった。

男はマルコに向かって微かな笑みを浮かべたのち、上空の戦闘機に向かって、闇雲に砲弾を撃ち始めた。
低空飛行していた戦闘機に命中するのと、砲台に向かって放たれた銃弾を男が浴びるのと同時だった。戦闘機からの脱出に失敗した操縦士は、大地へと叩きつけられた。マルコの身代わりとなった男は仰向けとなって無残な最期を遂げていた。
マルコは駆け出した。

能面は云った。「その男たちの左手をよく視ろ」
マルコは血に染まった彼らの手を確認した。……手首から手の甲にかけて三日月型の深い傷。そして、二人の男の顔は、表情の無い能面と瓜二つだった。
続けて漆黒の仮面は囁いた。「操縦士の懐には、国家元首の肖像が入っている」
マルコは死んだ男の戦闘服から写真を取り出した。二度視るまでもなかった。同じ顔に同じ傷。

能面は激しく揺れた。
「幻だよ、マルコ」


……僕が求めていた“Under the Sun”は、こんなところじゃない。
人々が憎しみあい、殺しあう社会が“楽園”であろうはずがない。
己の分身しか存在しないような不条理な世界ではない。誰も信じることのできない孤独な社会であるはずがない。


静寂が訪れた。マルコは震える両足を無理やり動かして、大地に横たわっている屍の数々を凝視した。どれも同じ顔、同じ傷。……これは悪い夢だ。
どこからか、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。マルコはその哀しい声に導かれるように、硝煙漂う中を進んでいった。

涙がとめどなく頬をつたった。抱き上げた赤ん坊の顔は、あの能面ではなく生気に満ちた可愛らしいものだった。
「虚飾を剥がせ、マルコ」
いつの間にか傍にいた漆黒の仮面が揺れながら云った。
「この世界は、お前自身が作り出した仮想現実だ。あの操縦士も、砲台の男も、すべて。常に虐げられる側、弱者の側に立ちたいと願うお前は、本当にモノゴトの本質が視えていたのだろうか。弱者たちを視ていたつもりでも、それは単なる自己投影……つまりは虚栄に過ぎなかったのではないか。真に人々と繋がり連帯するのなら、まず己自身の虚飾を剥ぎ取らなければならない」
マルコは呆然と能面の言葉に聞き入った。
「偽らず、根源的に見極めろ。裸形のままに、白日のもとに晒せ。今現在の選択/言動がもたらす状況との関わり方を、もう一度問い直せ」

腕の中で赤ん坊は眠りについていた。彼は、改めて死者たちを視つめた。
そこには、人間一人一人の顔があった。それぞれに表情があり、死してなお彼らはそれぞれの人生を語りかけてくるようだった。
やがて薄っすらと消えていく人々の影。抱いていたはずの赤ん坊も消え失せた。



溢れ出す涙を拭ったマルコが再び瞼を開けると、硝煙と瓦礫は一瞬にして消え去っており、晴天のもと見渡す限りの草原が拡がっていた。

「此処が楽園だと思うか」能面は云った。
マルコは肩をすくめた。
「さぁ、どうだろう」
彼は天空を見上げた。澄み渡った青い空を、一筋の飛行機雲がどこまでも遠く伸び続けた。
「あそこを視てよ。ほら……」
遠く美しい湖のほとりに人々が集い、こちらに向かって手を振っていた。
マルコは笑って、漆黒の仮面の方へ顔を向けた。だが、そこには何も無かった。草と戯れる羊たち以外は。


彼は、新しい一歩を踏み出した。
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SHELL
たとえば
寄せる波の白い飛沫と
残照に揺れ翳る帆影に

たとえば
残された蒼い貝殻と
砂に刻まれた幼き心に


僕は君の濡れた髪に触れ
消えゆく水平線の彼方と
絶えることない風を抱く

手の砂をはらい
振り向く刹那 君は
或の日の涙を 海に返していた。


帰ろう

もう、
僕らは行かなくちゃいけない。


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雨上がりの空に……。


朝、目覚めて窓の外を見るまでもなく、
雨が降っていると気付くのは、何も雨音の為ばかりではないのかもしれない。

微妙な空気の変化、とでもいえばいいのだろうか、
ちょうど雪の日と同じく、しんみりとした空気に
身体が敏感に反応し、自然とバランスを整えているかのように感じる。

目覚めのけだるさよりも、疲れきった心身を浄化するかの如き潤いを与えくれるかのようだ。

トトトン。トトトン。

或る一定のリズムを刻みつつ、降りしきる雨は
地上に幽かな霧状となって跳ね上がり、流れゆく。

住居から近くの森林を見下ろせば、パラパラと不規則な音色とともに、自らの重みに耐え切れずに落ちてゆく雨の雫が枝葉から枝葉へと渡り落ちて、青々とした茂みへと消えてゆくのがわかる。

雨音には癒しの効果も秘めているという。
確かに、己の胸に手をおけば鼓動は緩やかだ。

トトトン。トトトン。

静かに、静かに
降り続く雨を、飽きもせずに眺めつつ、
穏やかな一日を始めていく。

街の喧噪も今日は少しも気にならなかった。



そして。

……雨上がりの夕暮れ。

   遠く連なる山の上空に架かる
     二重の虹を見た。

     ちっぽけで、頼りなげで。
       それでも、やけに美しい。

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海へ  〜My Foolish Heart〜

その冬、初めての雪だった。

夕刻から振り出した雪は、街を抜けて湾岸道路を走る頃には、散らつく程度となっていた。ライトの光芒に反射し舞い落ちてくる雪の幻影は、私を淡い記憶の彼方へと導くようでもあった。
揺れ惑う白い雪の行方も追えず、ただ落ちては消える光の残像に軽い目眩を覚えていた。


心が渇いていた。
カーオーディオから流れる Pat Metheny。
甘美なそのメロディに身を委ね、白い世界へと入っていく。

そういえば、あの冬の日も、
同じように Pat Metheny が流れていた……。




彼女と過ごす二度目の冬だった。
その日、二十二歳になったばかりの彼女と、街のレストランでささやかなお祝いをした。食事のあと、夜のドライブへと誘った時、彼女はためらいがちに、

海へ、帰りたい。

彼女はそう言った。
“帰りたい”という言葉の裏には、何があったのだろう。その時の私には、単なる彼女の気まぐれな言葉のひとつとしてしか受けとれなかった。
海へ向かう車の中、彼女はいつもより静かだった。
私は Pat Metheny のCDをセットした。
「Are You Going With Me?」 という夢のうつろいにも似た美しい曲に合わせて、彼女が小さくメロディを口ずさんだ。

限りなく優しい時の流れに落ちていく二人。
彼女以外、何も必要ではなかった。



やがて、海へ。
彼女は途中で眠ってしまっていた。
起こすのも可哀想だったので、そのまましばらく海と、そして彼女を見ていた。

水平線は遥か彼方。
空には、満天の星。
波のリフレイン。遠く灯台の灯。
時折過ぎゆく風の迷い。

愛しい彼女の寝顔を見ているうちに、
いつしか私も浅い眠りへと落ちていった……。




いきなり顔に水をかけられ飛び起きた。
しょっぱい潮の味がした。
彼女は間抜けな私の顔を見て、しきりに笑った。私は怒ったふりをして、逃げる彼女を追いかけた。しばらく二人してはしゃぎながら波打ち際を歩いた。
風が彼女の髪を優しく撫でた。

ありがとう。

彼女はポツリそう云った。
私は少し戸惑いながら「来年もまた来よう」と云った。
小さく頷いた彼女のためらい。その時の私には、彼女の瞳の奥に宿る哀しみの色に気付くことはできなかった。
砂浜に二人並んで座り、夜が明けるまで海を見ていた。

揺れる心。
求めていた大切な何か。
確かなことは、彼女に魅せられていく自分の存在。私を見つめる彼女の瞳。
穏やかなその微笑みに秘められていたのは、はかなく脆い硝子の心だった。






半年後、彼女は私に別れも告げず、突然逝ってしまった。
病んでいた心臓の悪化が原因だった。
あとで知ったことだが、あの海へ行った日、彼女はすでに自分に残された時間が僅かしかないことを知っていたという。

彼女は海へと帰っていったのか。
それを確かめるために、あの海へ……。




雪はいつまでも降り続いていた。
CDを Bill Evans へと替えた。

…… My Foolish Heart




私はいつでも優しくいれただろうか。


今夜は眠らずに帰ろう。
目覚めても、彼女の笑顔はもう、あの海にはきっとないはずだから……。





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プリズム

     霜月桔梗



雪に揺れる夜の下
彼女は、ぽつり呟いた。

月も 星も
街の灯も
何も届かぬこの闇に
雪はどうして輝くの?

吐く息は、白く
彼女は雪に染まりゆく。

天空指して僕は言う。

孤独を知らないこの雪は
舞い落ちる彼らのプリズムで
さえぎる雲を通り抜け

月と 星と
街の灯と
何も届かぬ君の手に
光を集めてくれるのさ。

彼女は笑って、僕に言う。

あなたの心のプリズムは
私にまだまだ届かない……。

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